
各個人の遺伝子、環境及び生活様式の多様性を考慮して病気を治療・予防する新たな概念の医学を精密医学といいます。これは次世代シーケンシング解析(Next Generation Sequencing)という大規模なゲノム情報解析技術が急速に発展した結果、可能になった医学で、未来の先端医療サービスにおいて根幹をなすものと予想される分野でもあります。様々ながんの中、がん分子標的薬と免疫抗がん剤が最も発達した肺がんは精密医学において注目を浴びている疾患の一つです。
このような背景にて独自的で開発した液体生検(Liquid Biopsy)技術を基に2016年10月に液体生検研究所(Liquid Biopsy Lab)を設立し、様々な革新的臨床研究を遂行することで、伝統的なゲノム解析を行う従来の組織生検(Tissue Biopsy)との相乗作用を最大にし、治療に適用する方法を具体化しています。
1. 肺がん治療における精密医学の必要性
肺がんは非小細胞肺がんを中心として分子標的薬及び免疫抗がん剤が最も発達したがんです。EGFR、ALK、ROS1など、遺伝子変異を検出する検査は進行性非小細胞肺がんの治療において基本的な検査になっており、免疫チェックポイント阻害剤の処方のためにはPD-L1免疫組織化学法を必ず行うようになりました。このような遺伝子及びタンパク質検査のコンパニオン診断により毒性の強い抗がん剤治療の代わりに患者の遺伝子型及び分子型に応じたオーダーメイド医療を提供することで、がん治療の効果を最大にしながら副作用は最小化することができました。また患者本人に効果のない高価の抗がん剤治療が避けられるという経済的な効果も期待できます。
2. 次世代シーケンシング解析(Next Generation Sequencing)
2003年に完成したヒトゲノム計画(Human Genome Project)では30億塩基対を解読するのに15年の期間と30億ドルの予算が注ぎ込まれました。ヒトゲノム計画のおかげでDNAの塩基配列解読技術は飛躍的に発展し、現在では超高速・大容量の塩基配列解釈を低費用で行えるようになりましたが、これを次世代シーケンシング解析(NGS)と呼びます。このNGSにより、がん遺伝子変異の診断を約10~20万円の低費用と2週間という短期間でできるようになりました。またEGFR遺伝子変異のように単一遺伝子検査を行う場合はPCR法で十分ですが、一つのサンプルで様々な病気の遺伝子を同時に解釈できるNGSはゲノム解釈をベースとする精密医学時代へと導いてくれた先端生命科学技術だと言えます。
3. 液体生検(Liquid Biopsy)
がん診断は体内にがん細胞が存在することを証明することで確定するため組織検査は必須となる基本検査といえます。しかし、組織検査というのは代表的な観血的・侵襲的な検査法であり、患者としては避けたくなる検査でもあります。最近では肺がんを中心にT790M突然変異のような分子標的薬の耐性遺伝子を検出するために再組織検査を施行しなければならなくなりましたが、大変な過程を経て再組織検査を行ったにもかかわらず、適切ながん組織が採取できなかったり、最初から組織検査が施行できない場合もあります。これを受けて血液などの体液からDNA(ct DNA)を分離し、がん遺伝子検査を行う方法が開発されました。すなわち血液、尿、胸水、唾液、気管支肺胞洗浄液、脳脊髄液などの体液から分離したDNAを用いて遺伝子検査を行うようになりましたが、これを液体生検(Liquid Biopsy)といいます。肺がんにおいて液体生検の重要性は日々高まっていますが、その理由としてはほとんどの肺がん患者からは遺伝子検査に必要な適切な量のDNAを得ることができないからであります。このような欠点を補完するために建国大学病院肺がんセンターは世界的レベルの液体生検研究所(Liquid Biopsy Lab)を設立し、T790Mを含むEGFR遺伝子変異検査はもちろん、次世代シーケンシング解析に必要な液体生検も施行しています。
4. 肺がんにおける早期診断の重要性
肺がんは体表的な難治性がんの一つです。その理由としては、外部の空気が直接肺へと入り込むことから喫煙時に発生する発がん性物質に曝露されやすく、また発がんの過程が非常に複雑で生物学的悪性度が高いからです。また解剖学的・生理学的に複雑な構造と機能を有しているため、早期診断が困難です。実際のところ、手術的切除で完治可能な1、2期と早期診断された患者数は全体の20%に過ぎず、残り80%に至る患者が3,4期の進行性肺がんと診断されています。従って肺がんにおける早期診断の重要性というのはいくら強調しても強調し過ぎることはないといえます。なお、喫煙指数(ブリンクマン指数)が600以上である喫煙者のような高度危険群は低線量CT(low dose CT)による早期肺がんのスクリーニング検査を受けるように勧めています。
5. 非喫煙者の女性における肺がん
肺がんを論じる際に必然的に浮かべてしまうほど、タバコは肺がん発症の絶対的要因ですが、欧米と異なって韓国を含むアジアの国では肺がん患者の約30%が非喫煙者の女性から発症したということは看過してはいけないでしょう。非喫煙者の女性に肺がんが発生する原因はまだ学術的に明らかになっていませんが、70%に至る非喫煙者の肺がんからEGFRを中心とするALK、ROS1などの標的遺伝子変異が発見されたという事実は臨床的に非常に重要であります。これらの遺伝子変異が診断されるとがん分子標的薬による治療効果がとても高いので、早期発見できるように検診などに注意を払う必要があります。また40歳以上の中年女性なら胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査のような低線量CTによる早期肺がん検診を受けることが最も大事だといえます。
6. 精密医学と未来医学
上に述べたように精密医学は、第4次産業革命の波と共に未来の医療システムの中心へと発展するという見解は疑う余地のない現実として近づいています。建国大学病院はこれに従い、革新的な研究成績をベースとして臨床研究の開発をリードしすることで、世界的レベルの肺がん診療センターになるよう、努力していきます。